2022年7月24日日曜日

メチニコフの『近代医学の建設者』を読む















今日は、最近の日課から離れてみようという気になった

シンコペーションのような感じだろうか

そこで目に入ったのが、メチニコフ(1845-1916)による『近代医学の建設者』(宮村定男訳、岩波書店、1968)

20歳の夏、この本が出た1週間後に手に入れたことになっている

当時の意識を少しだけ感じることができ驚いたが、読んだ形跡はない

時を経て、それを手にするのも悪くないだろう


メチニコフについては『パリ心景』でも取り上げているが、彼自身が「近代免疫学の建設者」のお一人になる

原典は、Trois fondateurs de la médecine moderne: Pasteur, Lister, Koch (Félix Alcan, 1933)

本書は元々、メチニコフの最晩年に当たる1915年にロシア語で発表されたものの仏訳になる

「無智と誠意の欠如」のために勃発した第1次世界大戦の影響下に書かれた様子が、緒言に出てくる

彼はこの中で、近代医学の建設者として、それぞれ面識のあったパスツール(1822-1895)、リスター(1827-1912)、コッホ(1843-1910)を挙げている


本書は、パスツール以前の医学の紹介から始まる

当時の医学は、病気の症状、診断の方法、臓器の変化を研究、そのために肉眼から顕微鏡の使用が始まった

治療法は専ら経験によるものだが、ジェンナー(1749-1823)による天然痘予防のための種痘法は生まれていた

当時の学界に大きな影響力を持っていたのは、ドイツの病理学者フィルヒョウ(1821-1902)の細胞病理学説であった

これは、病気の本体は、生体を構成する細胞の異常によるとするもので、次のように要約している

「あらゆる病気は結局、多数または少数の生命の要素たる細胞の受動的あるいは能動的の障害(すなわち、細胞内容の物理的化学的変化に従う分子構成によって、その活動能力が変わってきた細胞)というものに帰する」

これをメチニコフは、「ほとんど形而上学的ともいえる公式」と形容していて、少しだけニンマリする

この時期、無限に小さな生物が細胞の機能を侵すという仮説も出されていたが、フィルヒョウはそれを否定

それから、クリミア戦争における統計が出てくる

それによると、戦闘による死者に比して病気や戦傷による死者の方が圧倒的に多いこと、大腿骨骨折手術を受けた者は受けなかった者より死亡率が高いことなどが明らかにされる

微生物による感染が示唆されるが当時の医学は無力で、医学の土台から改造しなければならなかったのである






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