2022年7月26日火曜日

メチニコフの『近代医学の建設者』を読む(3)




























 Élie Metchnikoff (1845-1916)




一日がどんどん長く感じられるようになっている

これ自体、素晴らしいことだ

その上で、一日を途中で諦めたり、流したりせず、最後まで突き詰めることができれば、その先に何かが見えてくる

これも最近の実感である


ところで、『免疫学者のパリ心景』を通読したという方から便りがあった

雑誌掲載時とは様変わりし、最初から最後までテンポ良く読むことができた

文章そのものは静かな中に、何か太い思索の跡が滲み出ていて、読み応えある本だった

今、2回目を読みながら、気になる部分をノートに書き落とす作業をしているとのこと

ありがたい読者の存在を確認したところで、今日もメチニコフ(1845-1916)に進みたい



『近代医学の建設者』の第3章「パスツールの醗酵説」である

パスツール(1822-1895)は結晶化学(分子の非対称性)の理論的研究で科学界に現れ、そこから醗酵の研究に移行していった

1857年、パスツール35歳の時、乳糖の醗酵に関する論文を発表

そこに微細な生物、すなわち乳酸発酵の種を発見し、リービッヒ(1803-1873)説に異議を申し立てたのである

リービッヒ説では、酒精醗酵以外の醗酵には生物は関与しないとしていた

パスツールは論文にこう書いている

「顕微鏡で見ると、その酵母は小球状あるいは非常に短い形のもので、ばらばらになったりかたまっていたりして、無定形の沈殿物に似た不規則な綿屑のようなものになっている」
「この論文を通じて私は新たに発見された酵母が有機体であり、一個の生物であって、糖におよぼす化学作用はその発育と有機的組織に相関しているという仮説を推定した。もしこの結論が事実を越えているとあえて言う人があるとすれば、私は、厳格に言えばまだ論議の余地のないほどには証明できていない、ある種の思想に、断固として身を投じたのであって、その考え方からするとこれが本当である、と答えるであろう」(以上の引用は宮村定男訳)


彼はさらに、無定形物質を除いた条件で実験 し、小球状のものが原因であることを示した

また、他の醗酵系(酒精、醋酸酪酸)についても研究を広げ、「酵素の特異性」という概念を作った





























Eduard Buchner (1860-1916)




パスツールの死後、ドイツの化学者エドゥアルト・ブフナー(1860-1917)は、ビール酵母から「チマーゼ」という非生物物質を抽出

この物質は酵母の生細胞がなくても醗酵を誘導した

これはパスツール説の論駁になり、リービッヒ説の確証だと考えた学者もいたが、メチニコフはその見方を否定している

リービッヒ説は、醗酵に生細胞は必要なく、醗酵素の分解産物か、他のタンパク様物質(カゼイングルテンなど)が関与するというもの

これに対してブフナー説は、生きた酵母の中で作られた物質(チマーゼ)が醗酵を引き起こすとしている

従って、酵素の死骸が醗酵に関与することはないのでリービッヒ説の否定にはなるが、パスツール説を否定するものではないとメチニコフは結論している

ただ、これを「活力論(生気論)」とする者がいるが、それに対しては明確に批判している

この言葉には、醗酵が何か神秘的な活力によると思わせるところがあるからである








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