2017年9月21日木曜日
ウンベルト・エーコ著 『ファシズムを見分ける』 を読む
先日のパリのリブレリーで、昨年亡くなったウンベルト・エーコさんの小冊子が目に入った
1995年4月25日にニューヨークのコロンビア大学で行われた講演をまとめたものだ
タイトルは、『ファシズムを見分ける』 となっている
2000年に出たエッセイ集 『道徳の五つの問題』 には、「永遠のファシズム」として入っているという
日本では1998年に 『永遠のファシズム』 として訳されているようなので、相当遅い気付きであった
前半では、特に第二次大戦前後の自らの体験を中心に語っている
そこから Ur-fascismeという概念を生み出している
ウルファシズム(原ファシズム)とは、原始的で永遠にそこにあるファシズムを指している
そして、その特徴を14挙げている (仏訳の原文はこちらから)
以下に簡単にメモしておきたい
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1) 第一の特徴は、伝統の崇拝(culte)である
伝統主義はファシズムよりも古い
ヘレニズム時代の終わり頃、古代ギリシャの理性主義への反動として生まれた
2) 伝統主義は近代主義を拒否する
ナチスのようなファシストは、テクノロジーを愛する
その一方、一般的に伝統主義者は技術を拒否し、技術を精神的な価値の否定と捉える
ナチスは工業的成功を誇るが、その近代性への讃辞は「血と地」に基づく表層的なイデオロギーだ
近代世界の拒否は資本主義的生活様式の非難によってカモフラージュされている
啓蒙時代、理性の時代の精神を否定していることを覆い隠している
その意味では、原ファシズムは非合理主義、非理性主義と定義できる
3) 非理性主義は、「行動のための行動」の崇拝に依存している
行動自体をよいものだとし、考える前に行動しなければならないとする
思考することは去勢のようなもので、文化は疑わしいものである
ゲッペルスは、「文化という言葉を聞いた時には、わたしは拳銃を抜く」と言っていた
知的世界に向けられる疑念は原ファシズムの症状である
ファシストの知識階級の主な仕事は、伝統的価値を捨てたインテリと近代文化を糾弾することである
4) いかなる形態のシンクレティズムも批判を受け付けない
批判精神は違いを確立し、識別するということは近代性の一つの特徴である
科学界は、知識を進歩されるための道具として不一致を捉えた
原ファシズムにとっての不一致は、裏切りである
5) 不一致は多様性の徴でもある
原ファシズムはコンセンサスを信じ、違いに対する誰にでもある恐れを利用してコンセンサスを求める
ファシズムの運動が最初に訴えるのは、よそ者である
したがって、原ファシズムは人種差別主義である
6) 原ファシズムは、個人的、社会的フラストレーションから生まれる
歴史的ファシズムの一つの特徴は、欲求不満を抱えた中流層に訴えることである
経済危機や政治的屈従により不利な状態に置かれ、社会の下層の圧力におびえているからである
7) 社会的アイデンティティのない者に関して、原ファシズムは彼らが特権を得ていると言い募る
ナショナリズムの源がここにある
さらに、国家にアイデンティティを提供できる者だけが敵になる
それが、原ファシズムの心理の根に陰謀の強迫観念が見られる理由である
陰謀が顔を出すようにする最も単純な方法は、外国人嫌悪に訴えることである
陰謀は内部からも来る
ユダヤ人は国内外で恵まれているので、格好の標的になる
8)ファシズムの信奉者は、敵のこれ見よがしの富や力に侮辱されたと感じる
しかし、彼らは体質的に敵の力を客観的に評価できないので、戦いには敗れざるを得ない
9) 原ファシズムにとって、生活のための闘いはなく、あるのは闘いのための生である
そのため、平和主義は敵との共謀になる
生は絶え間ない闘いなので、平和主義は悪である
敵は打ち砕かなけれならず、それは可能なので、最終戦がなければならない
そのため、この主義はハルマゲドン・コンプレックスを含んでいる
その後に運動は世界の征服することになる
そこでは平和な時代が来るはずで、彼らの永続的な戦いと矛盾するが、その回答は出されていない
10) エリート主義は、基本的に貴族的なものとして、反動イデオロギーの典型的な側面である
歴史的に見ると、すべてのエリート主義には弱者に対する軽蔑がある
原ファシズムは、エリート主義を唱道することを避けることができない
リーダーは彼の権力が委任ではなく力で勝ち取ったことを知っている
その力が大衆の弱さに依存していることもである
そして、大衆があまりにも弱いので、支配者を必要とし、支配者の恩恵を受けているのである
社会にヒエラルキーができると、支配されているリーダーがその下の人間を軽蔑するようになる
その下の人間はさらに下の人間を軽蔑するという連鎖が生まれ、エリートの感情を強固なものにする
11) この見方に立てば、それぞれは英雄になるために教育されることになる
神話では英雄が例外的だったのが、原ファシズムではそれが規範になる
英雄崇拝は「死の崇拝」と密接に関係している
普通の人には、死は不快なものだが威厳を持って立ち向かわなければならないと言われる
ファシズム信奉者には、それが超自然的な幸福に至る苦しみを伴うやり方なのだと言うのである
原ファシズムの英雄は、英雄の人生における最高のご褒美であると言われている死を熱望する
死を熱望し、急ぐあまり、多くの場合、他人を死なせることになる
12) 原ファシストは、力の意志を性的問題に転換する
そこから、女性や同性愛者に対する軽蔑を含むマッチョが生まれる
性を扱うのは難しいので、原ファシストの英雄は性に代わる武器を弄ぶのである
13) 原ファシズムは、「質的ポピュリズム」に基づいている
民主主義においては、市民は個人の権利を享受している
市民の集合は量的な点においてのみ政治的重みを持つ
原ファシズムにとっての個人には権利はなく、「人民」は共有する意思を持った一つの性質である
人間の数には共通意志はないので、リーダーはそれを解釈することを望む
市民は委任の力を失い、行動せず、単に「全体のための部分」(pars pro toto)と呼ばれるに過ぎない
われわれの未来には、「テレビあるいはインターネットの量的ポピュリズム」が浮かび上がる
そこでは、市民から選ばれたグループの情緒的な反応が「人民の声」として扱われるようになる
量的ポピュリズムのせいで、原ファシズムは「腐敗した」議会政治に反対するのである
政治家が議会の正当性に疑いを発するたびに、原ファシズムの香りが漂う
14) 原ファシズムは、オーウェルが『1984年』で発明した「ニュースピーク」を話す
ナチスやファシストの教科書はすべて、貧弱な語彙と初歩の構文を用いていた
複雑で批判的な論証をするための手段を制限するためである
われわれは新手のニュースピークを見分ける準備をしなければならない
それが大衆向けのトークショーの一見無害を装っているような場合にでもである
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エーコ氏による原ファシズムは、近現代社会に常に潜んでいるもののようである
それが顕現化しているように見えるのが、最近の流れではないだろうか
この分析を読んだ後には、同じ景色が違って見えてくる
あるいは、より明確になると言った方がよいかもしれない
常に目を凝らしていなければならないということだろう
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