2021年6月11日金曜日

ツルゲーネフの言葉から(9)















今朝も素晴らしい快晴であった

蜘蛛も朝から日向ぼっこか


久し振りという感覚だが、1日を空けただけであった

今日もツルゲーネフを読んでみたい


ーーいまのぼくは、はじめてここへきたころのような、高慢ちきな子供じゃありません・・・とアルカーヂイはつづけたーーぼくはもう二十三になったんです。有益な人間になりたいと望んでいることに変わりはありません。自分のすべての力を真理にささげたいと思っています。しかし、自分の理想を、まえに求めていた方面に求めようとは思いません。理想はぼくにとって・・・ずっと近いところにあるような気がします。いままでは自分が分からなかったんですね。がらにない任務を自分に課していました・・・僕の目はちかごろになってやっと開いたんです。ある感情のおかげで・・・

 


ーーところで、いまわかれるにあたって、もう一度言っておこう・・・なにも自分をいつわることはないからね。われわれは永久に別れることになる。それは君も感じているだろう・・・君は利口にふるまったよ。君は、ぼくらのにがい、じみな、貧乏人の生活には、むいていないんだ。君には大胆さも、怒りもない。ただ若気の勇気といたずらっ気があるだけだ。われわれの仕事には、そんなものは役に立たない。君たち貴族連中は上品なあきらめか、それとも上品な興奮以上には、進めないんだからな。これではどうにもならないさ。たとえば、君たちはけんかしない。それで自分をえらい人間だと思ってる。ところが、ぼくらはけんかしたいんだ。そうなれば、ぼくらのほこりが君の目にはいるし、ぼくらの泥が君の着物をよごすだろう。君はぼくらの高さまで成長していないんだ。君はおもわず自分に見とれて、自分をののしっていれば、気もちがいいんだろうが、ぼくらにとっては、それはたいくつなことだ。ぼくらには相手が必要なんだ。相手をやっつけることが必要なんだ。君はいい青年だが、やっぱり骨のない、自由主義的な貴族の若だんなだよ、ぼくの親父のいうヴォラトゥ(Voilà toutーそれっきり)だよ。

 

 

 バザーロフはもうそれきり目ざめないように運命づけられていた。夕方から彼は完全な昏睡状態におちて、つぎの日に死んだ。アレクセイ神父が彼の死ぬまえに宗教上の儀式をとり行った。塗油式をして、聖油が彼の胸にふれたとき、彼の片目があいた。祭服をつけた僧侶や、煙のたちのぼる香炉や、聖像のまえのろうそくなどを見て、一瞬なにか恐怖のおののきに似たものが、死相をおびた顔に映ったように思われた。彼が最後の息をひきとって、家のなかに嘆きの声がみちわたったとき、思いがけない、怒りの発作がヴァシーリイ・イヴァノ-ヴィッチをおそった。

ーーわしは天をうらむと言っておいた!ーーのぼせた顔をゆがめて、だれかをおどかすようにこぶしをふりながら、彼はしわがれた声で叫んだーーだからわしはうらむぞ、うらむぞ!

 けれども、アリーナ・ヴラーシエヴナが、顔じゅうなみだでぬらしながら、彼の首にすがりついた。そしてふたりは一しょにうつぶせにたおれた。

 

(金子幸彦訳)






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