ドゥニ・ディドロの言葉から
あれもあれなりに哲学者ですからな。あれは自分のことだけしか考えちゃいない。自分以外の世界のことはあの人にとっちゃ一文の値打ちもありませんや。… それがあの人にとって幸福なことなんでさあ。これがわしが天才というやつのうちでとくに高く買っている点ですよ。彼らはただ一つのことにしか役に立たないんです。それから先は、ろくでなしなんだ。市民とか、父親とか、母親とか、親類とか、友だちとかであることがどんなことだか、彼らにゃわかりゃしません。… 天才なんかいりませんや。いやまったく、そんなものはちっとも必要じゃない。ところが、地球の表面を変化させるのは彼らなんだ。しかも、どんな些細な事柄についても、人間の馬鹿さかげんはひどく行き渡っていて根強いもんだから、わいわい騒ぎ立てなくちゃその改革なんかできっこないですよ。彼ら天才の想像したことの一部は実現されていますが、一部は前のとおりです。
(本田喜代治、平岡昇訳)
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