ディドロの言葉を少しだけ
しかし、誰でも望みどおりのことはできるもんじゃないんだから、手に入るものをすなおに受け取って、それから最上の利益を引き出さなくちゃなりますまいて。
私ーー誰でも他人を必要とする者は貧者だよ。だから、そいつはポーズをとるもんだ。国王もその愛妾の前や神の前ではポーズをとり、パントマイムのステップを踏むんだ。大臣も、自分の国王の前では、廷臣やおべっか使いや召使や乞食と同じような歩き方をするよ。…
しかし、パントマイムを必要としない存在が一つある。それは哲学者だ。なんにも持っていないし、なんにも求めない哲学者だ。
彼ーーへえ、そんな動物がどこにいますかね。なんにも持たなければ、そいつは苦しみますよ。なんにもねだらなけりゃ、なんにも手に入りはしませんよ。そうだと、いつも苦しみますよ。
私ーーいや、ディオゲネスは欲望をあざわらったよ。
彼ーーしかし、着物は着なけりゃなりませんね。
私ーーいや、彼はすっ裸で歩いたんだ。
彼ーー時々はアテネだって寒かったでしょうよ。
私ーーここほどじゃない。
彼ーーあすこでも飯は食ったんでしょうね。
私ーー勿論。
彼ーー誰が負担しましたか。
私ーー自然だ。未開人は誰にたよるかね。大地や、動物や、魚類や、樹や草や木の根や、小川にだ。
…
彼ーーところで、あんたがさっき言われたことから、わしのかわいい女房が一種の哲学者だったことがわかりましたよ。あいつにはライオンのような勇気がありました。時々、わしらは、パンにもこと欠き、1スーもないことがありました。わしらはぼろ着類もほとんど売り払っていました。… ところで、彼女(あいつ)ときたら、河原鶸のように陽気に、クラヴサンに向かって歌い、自分で伴走していました。
(本田喜代治、平岡昇訳)
0 件のコメント:
コメントを投稿