Louis Pasteur (1822-1895)
今日は、第4章「パスツールの生物自然発生否定説」について読んでいきたい
パスツール(1822-1895)は、醗酵、腐敗を微生物が起こすことを発見したことから、この醗酵素の起原に興味が向かっていった
新鮮な葡萄汁や牛乳などが容易に醗酵するということは、醗酵素が至るところに存在するからなのか、あるいは有機物内で自然に発生するためなのか
つまりパスツールは、生物の自然発生の問題に直面することになったのである
彼は次のような実験をして、いかなる醗酵素も自然に発生するものではないことを証明した
まず、有機液を沸騰して放置した場合には、醗酵は起こらなかった
醗酵が起こるためには、その中に前の培養で得られた醗酵素や空気中の塵を入れなければならなかった
その結果から彼は、醗酵素は自然発生するのではなく、外界から入ってくると結論したのである
明快な結果だったので、直ちに科学界に受け入れたと思うだろう、とメチニコフ(1846-1916)は読者に語り掛けている
しかし、事実は全く逆であった
攻撃の急先鋒は、ルーアンの博物学者で自然発生の信奉者フェリックス・アルシメード・プーシェ(1800-1872)であった
彼はパスツールの実験を追試し、パスツール説を否定したのだが、その条件が異なっていた
溶液中に枯草の浸出液を満たしたので、醗酵素を加えなくとも細菌が増殖できたのである
プーシェの反対が収まらなかったので、パスツールは科学アカデミーにこの問題の決着を要請、公開実験が行われることになった
しかし、プーシェ側はその場から逃げ出したのであった
ただ、煮沸された枯草浸出液に何も加えずに細菌が生ずるというプーシェの観察も間違っていなかった
後にパスツールらは、枯草浸出液中に長時間の煮沸にも耐える細菌の芽胞が存在することを証明し、改めて自然発生説を否定した
Henry Carlton Bastian (1837-1915)
激しいパスツール批判を行っていた学者に、イギリスのヘンリー・カールトン・バスティアン(1837-1815)がいる
彼は、長く煮沸した尿について、確かに醗酵しないことを認めた
しかし、この尿に少量のアルカリを加えると、醗酵素なしでも細菌が発育し、混濁してくる
バスティアンは、これを生物の自然発生の証拠であると考えたのである
パスツールは、煮沸された尿にも芽胞が含まれ、普通は酸性である尿が弱酸性あるいは中性になれば、細菌は増殖することを示した
Charles Chamberland (1851-1908)
この結果から、微生物の中には長い煮沸にも耐えるものがあることが明らかになり、これ以降、108~120℃にまで加熱しなければならなくなった
さらに、芽胞で汚染された容器のようなものの滅菌には、140℃まで加熱する必要が出てきた
このため、新しい装置の開発が求められた
今ではこの領域には不可欠になっているオートクレーブは、パスツールと共に働いていたフランスのシャルル・シャンベラン(1851-1908)の努力により開発された
このような論争の中でも生き残ったパスツールの学説は、次のように纏めることができるだろう
「腐敗と醗酵は微細有機体すなわち現在の微生物の活動によるものであり、その起原は自然発生ではなく、同じ微生物である」
メチニコフは、この結論があくまでも科学的なものから導き出されたものであることを強調している
すでに触れたように、そこに生気論的な思考を見る人もいるが、パスツールは生命現象の化学性を否定したことはなかった
また、パスツールは宗教的確信からこの結論を導いたとする人もいるが、彼自身がそれを否定している
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